理工学部の基礎"

編集部: 2014年度から、理工学部の「都市ランドスケープ学系」は、
「まちづくり学系」に名称を変更しました。その目的はどこにあるのですか?

 従来「都市ランドスケープ学系」と呼ばれていたものが、2014年度から「まちづくり学系」に呼び名が変わりました。その主な目的は、より時代に即した学びの場へと生まれ変わることです。今後、日本はこれまで体験したことのないような超高齢化社会に突入します。そこで求められるのは、高齢者に優しいまち、安心して子育てできるまち、災害に強いまち、コミュニティの絆の強いまちです。豊かな自然や美しい景観を持つ、持続可能な社会基盤を持つまち、住む人たちが誇りを持ち、イキイキと暮らすことのできる魅力的なまちの再生・創造が求められているのです。
 こうした状況を受けて、すでに多くの市町村では魅力的なまちをつくるための動きが始まっています。自治体でも、かつて土木課と呼ばれていた部署が、まちづくり課等に名称を変えるようになってきました。このような流れから国士舘大学の理工学部では、学びの内容をより分かりやすいものとするために、「都市ランドスケープ学系」から「まちづくり学系」へと名称を変更しました。

編集部: 名称変更に際して、カリキュラムも新しくなったのでしょうか?

 「都市ランドスケープ学系」では、これまでもまちづくりに関わる講義科目を設けていましたが、これまで以上にまちづくりに重点をおいたカリキュラムへと改編しています。まちづくりには、都市やまちの魅力や課題を発見する力、土木・建築・都市学の知識を踏まえた空間デザイン、それを実施するためのシステムや工学技術、住民や行政といった多くの関係者の合意形成を図るためのコミュニケーション技術などが関係しています。そのため、総合的な視野から都市やまちのあり方を考え、それを実現できる知識や技術を身につけられるよう、幅広いカリキュラムが組まれています。

編集部: 先生はどのような専門分野で、まちづくりに関わっていらっしゃるのですか?

 私の専門は「水理学」と「河川工学」です。これはほとんど物理学に近いところの学問で、まちづくりでいえば治水に役立つものです。ただ、最近の傾向として、河川を活かしたまちづくりを行っていこうという機運が高まっています。今後は治水だけでなく、環境や風景のことを考えながら、河川の利用を考えていくことがさらに大切になってくると思います。そのために国土交通省は平成23年から、法律を整備しました。昔は河川敷といえば公園、運動施設、橋梁など公共性の高い施設や建造物があって、管理者は地方公共団体や公益事業者などだったわけです。それが、川を活かしたまちづくりをするのであれば、民間も活用していいと改正されたわけです。最近よく川辺に張り出したテラスなどを見かけますよね。これは民間による河川敷利用のひとつの形態です。水辺を活かしたまちづくりは、これからますます注目されることになると思います。

編集部: 「水理学」や「河川工学」は、何を研究する学問なのでしょうか?

 「水理学」は水の流れの物理学、つまり力学ですね。物が運動する状態を研究する学問で、対象が水だということです。「河川工学」は、「河川の性状、およびその保全・活用の技術や方法を研究対象とする学問」と定義され、幅広い分野を含み、流れに関しては、水だけでなく土砂の流れも含まれます。
 河川の水の流れる量は場所によって違います。それに応じて川底の砂が掘れたり堆積したりして、それが河川地形を作っていくのです。そのいちばん顕著なものが「交互砂州」と呼ばれるものです。川を上から見ると、まっすぐに流れていなくて、川の中でも流れは右に行ったり左に行ったりしています。川幅の中で蛇行しているんですね。そこには流れの速い場所と遅い場所があって、いろいろな生物が棲息できる環境が生まれます。一様にしか流れていない河川には、その流速に合った生物しか生息できないので、生物種の数が少なくなります。それに対して、交互砂州では多様な生物が生息できるようになります。また、水の上に砂が出ている箇所もできますから、植物もいろんな種類が育ちます。交互砂州のあるところは、生物多様性が保たれて、豊かな自然が生まれるのです。

編集部: 先生はいつ頃からこの分野の研究をなさっているのですか?

 大学の博士課程の頃から始めています。専門が分かれるのがちょうど大学4年生のときで、当時私は土質の研究室に入って「土」をやろうと考えていました。ただ、土の研究室は人気があったので、じゃんけんをして決めなさいということになった。それで二人でじゃんけんをして、私は勝ったんです。でも、水の方に決まっていた人から、「ぜひ一緒に水をやりましょう」と誘われて、なんとなく水理学をやることになってしまった。人の運命って分からないものですね。そこで土をやると言ったら、今の私はなかったわけです。
 日本は水の災害の多い国ですから、水理の研究はとても重要です。交互砂州の研究の前は、私は「河床波」といって、河床に凹凸ができるものを研究テーマにしていました。実は3才のときに伊勢湾台風を経験していまして、そのときに今の富士川が氾濫したんです。土砂が流され、橋が流され、私の家のあった地域一帯が陸の孤島みたいになってしまったという話を聞きました。そんなことがあって、川の中の砂の流れを研究しなければいけないのかなと思ったんですね。今の仕事に就いたのには、それが多少なりとも影響しているかもしれません。

編集部: カナダのケベックに、訪問研究員として行かれたそうですね。いかがでしたか?

 カナダのケベックに行かせていただいたのは、2008年の6月から9月までの4ヶ月間です。訪問先はLAVAL(ラバール)大学というところで、先方の大学でやっている研究を勉強させていただきました。川の自然再生というのをケベックでもやっていまして、それを実地見聞してきました。住んだのはケベック・シティなのですが、自然が豊かで、いいところでしたね。ケベックにセントローレンス川という有名な川が流れていて、そこを見学してきました。写真にあるのは取水のための装置です。冬場は川が凍結するので、そのための方策が考えられていました。日本ではちょっと見られないような構造ですね。市が造っているのですが、LAVAL大学の先生が開発に関わっていらっしゃいました。
 それから、同じくケベック市内を流れるセントチャールズ川も見学しました。かつては日本と同じように両岸がコンクリートで覆われていたそうですが、自然の環境が破壊され、コンクリート護岸は、夏場の気温をさらに高くするので、土で土手を造り環境を再生したという事例です。基本的に水理の考え方は日本と同じでしたが、カナダは日本よりも冬の寒さがかなり厳しいので、寒冷地水理の事例が印象に残りました。

編集部: 授業では、どのようなことを勉強するのですか?

 例えば、川の水面形を勉強する授業があります。水面形にはいくつかのパターンがあって、流れが急な川の場合と緩い川の場合で違ってきます。その中で、ダムの上流の流れはどういう水面形になるかということを学んだりします。川の流れをどこかで堰き止めたとき、その上流と下流がどうなるかというのは、水路の勾配によって違うので、急勾配の場合と、緩勾配の場合を勉強します。
 今も4年生が「水面形と流速」というテーマで卒業研究をやっています。たとえば、川の底に山のような突起がある場合、水面に現れる変化は水の流速によって違ってきます。速い流れのときは突起の影響を受けて水面が盛りあがりますが、遅い流れの場合は流れの性質上、突起のある箇所で逆に水面が下がるという現象が起こります。この現象はエネルギー保存則であるベルヌーイの定理から、理論的に導くことが出来ます。面白いでしょう。実際の川は、我々の直感とは違う流れ方をしているんです。逆にいうと、この箇所の川底を掘ると水面が盛り上がるという場合もあるわけです。河川の浚渫をするときには、こういう水位計算をしながらやっています。どのくらい掘ったら、洪水時に水位がどれくらいになるかといったことを予測するわけです。

編集部: ゼミでは、どのようなことを学ぶのですか?

 今、私のところのゼミには、3年生が三人、4年生が二人います。授業では基礎的な物理学をやりますので、ある程度数式の知識は必要になってきます。たとえば役所に入って土木関係の仕事に就く場合、計算などの実務はコンサルタント会社に発注することが多いので、自分で計算する機会は少ないと思います。ただし、根本の仕組みを理解しておくことは大切です。基礎知識として、水理の力学的なことは知っておいてほしいと思います。
 それと、あとは実験ですね。地下に「水理衛生研究室」という実験室があって、そこで水流の変化を見る実験をやります。水の量や障害物を置く位置などを少しずつ変えながら、繰り返し実験を行って、データを取っていきます。そして、そのデータと計算で予測した数値とを比較していきます。理論と実験の両面から、水理の知識を身につけていきます。

編集部: ここで学ばれる学生さんは、将来どのような進路に進まれるのでしょう。

 進路はいろいろですね。本学の場合は、公務員志望の学生が多く、警察官や消防士になりたいという人もおります。一方、私のところで学んだ学生には、建設会社に行くケースがけっこうあります。昨年私のところを出た卒業生は、足立区役所に専門職で就職しました。採用試験の範囲でいうと、土木造園という専門職になります。また、現在の4年生は、すでに両名とも施工会社に就職が決まっています。彼らはもともとアルバイトをやっていて、現場のことを相当知っているんですね。それで仕事をやってく自信がついて、進路を決めたんだと思います。

編集部: 最後になりますが、水理の学びを通して、どのような人間を育成したいとお考えですか?

 そうですね。一般的なことですが、今の若い人は、できないことを当たり前と思っている方が多いようです。習っていないからできません、分かりませんと。それを言っていたらいつまでも始まらないわけで、できないからこそできるようになりたいと思うことが大切だと思います。そういう前向きな人間になってもらいたいですね。
 まちづくりには、いろいろな要素が必要になってきます。そこには山や川といった自然環境、公園や水辺といったオープンスペース、橋や鉄道といったインフラストラクチャーなど、さまざまなものがあります。美しい自然や環境を守り、それにふさわしい建造物をデザインするのは、本当に楽しい仕事です。ただ、楽しいだけではだめで、そこにはきちんとした物理学的な裏付けが必要です。災害に強い、安心して暮らせるまちをつくるためにも、基礎をしっかり学んでほしいと思います。そして、次世代のまちづくりを担う人間として社会に出て、思う存分活躍してほしいと思います。

山坂 昌成(やまさか まさしげ)教授プロフィール

●工学博士/東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程修了
●専門/水理学、河川工学

掲載情報は、
2014年のものです。