政経学部の啓発

編集部: 政経学部の政治学科は、何を学ぶところでしょうか?

 政治学科は、現代社会のあり方を、政治に主軸を置きながら幅広く学んでいく学科です。現代世界は社会科学的に分類すれば、政治、経済、法律などに大別されます。政治は、国と国の関係、そして国内や地方などにおける統治や外交の基本として、人間の生活と切っても切れないものです。国士舘大学の政経学部政治学科では国際政治、国内政治、地方行政など、政治の各局面をトータルに学ぶことができます。また、政治学を超えて、経済・経営・法律まで幅広く学ぶことで、柔軟な発想を持つ国際人から地方の文化・行政・教育の担い手までも育成します。いろいろな分野を幅広く学び、社会人としての資質をしっかり養える学科といえるでしょう。
 ただ、政治と聞くと、国会や政治家を思い浮かべる人が多いようです。もちろん、そういう政治も政治学の範疇ではありますが、それだけではありません。政治にはいろいろな定義の仕方があります。私としては、簡単にいうと、物事の折り合いをいかにつけて問題解決するかが政治学であると思っています。私が専門に研究している国際政治の分野だと、軍事や安全保障、開発、人権、環境など、さまざまな問題があります。いろいろな利害関係者がいる中で、それらの問題にどう折り合いを付け、新しいルールや秩序を作って行くか。それをどう学問にし、世の中に提示していくか。そこに政治学の存在意義があると思います。

編集部: 国際政治と聞くと、私たちの暮らしとは無関係のように思えてしまうのですが……。

 確かに国際政治というと、自分から遠いことのように思えますね。でも、国際社会の問題だから、国内に住んでいる私たちには無関係かというと、そうではなく、実は我々の日常の中のいろいろなところに国際政治はあるのです。たとえば、食べ物を輸入するにしても、開発途上国からいろいろな食料を持ってきています。そして、日本は経済的に強者の立場にいて、世界には弱者の立場の人がたくさんいます。我々の豊かな食生活は、ある意味、彼らの犠牲の上に成り立っているところがある。そう考えたとき、そこに国際政治が向き合わねばならない問題があるのです。どういうふうにその問題に向き合い、世界的な視野から問題解決を図っていくかということにこそ、政治の使命と役割があると思います。

編集部: 先生は国際関係論の分野で、どのようなご研究をなさっているのですか?

 私が専門に研究しているのは、北欧地域の地域協力で、主に冷戦後のスカンジナビア諸国とロシアとの協力関係や、多国間の地域協力などです。地域でいうと、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマークの一部とロシアになります。
 この地域では今、EUほど強い結びつきではないのですが、サブリージョンといって、ゆるやかな地域協力を持つ試みが起きています。もともとこのあたりはバレンツ地域と呼ばれるところで、ソビエト連邦ができる前は、民族間交流のある貿易圏のようなものでした。ところがソ連ができて、国境が塞がれてしまい、交流が途絶えてしまった。しかし、1990年代に入ってふたたびソ連が崩壊し、冷戦が終結します。ポスト冷戦の世の中で、いったん交流の途絶えたバレンツ地域で、何か新たな足がかりを作らねばという、実際の政治的必要性から、この地域協力の試みが生まれてきました。
 かつてはEUの統合に向けて、バレンツ地域の中でどのように受け皿を作っていくかが大きな目的でした。しかし近年は、地球温暖化によって北極海の氷が解け、この地域に開発の手が入るようになってきたため、北極圏の開発ということがテーマになり始めています。ところが、この地域は国際的にルール化がなされていない。境界線すら確定していないところがあります。そんな中で、新しい秩序を作ろうとする動きが始まっているのです。
 このような動きは、いまの日本が置かれている状況と無関係ではありません。目の前に広がる新しい資源開発をめぐる大国間のパワーゲームの中で、バレンツ地域がどのようにコミットしていくか。それはアジアにおいても参考になります。二国間の均衡だけではなく、多元的な試みの中で緊張を緩和していく、そういうプロセスを用意していくことが、アジアにおいても政治的な試みとしてあっていいと、私は個人的に考えています。

編集部: 国士舘大学の政経学部では、どのような授業を受け持たれていますか?

 私が主に担当しているのは、国際関係論と国際機構論という授業で、その他はゼミですね。ゼミは1年生から4年生まで受け持っています。
 国際機構論の授業では、まさに国際連盟、国際連合と流れてきた国際社会の組織化の中で、紛争の平和的解決がどのように制度化されているか、といったことを学びます。国際関係論の話で必ず出てくるのが、カール・ドイッチュという研究者が提唱した「安全保障共同体」というもので、私が研究している北欧地域もそのモデルの一つです。授業ではあまり深入りはしませんが、一つの例として紹介しています。
 国際関係論は、もっと広い、地球的な視座で講義することが多いですね。貧困、人権、紛争、環境などの問題や、後期には核兵器の問題などにも触れ、学生の意識を啓発するような授業を行っています。大きな教室のスクリーンを使って、映像を流すこともあります。中にはインパクトの強い映像もありますが、世界の現実をありのままに見てほしいので、あえて私は流しています。世界のこうした現実と学生の日常は、決して無縁のものではない。学生が日々触れている情報と、この現実をつなぐ架け橋になるのが、私の役割だと思っています。話す内容はなじみやすいものではなく、使う言葉もやさしくありませんが、学生たちは必死でくらいついてきます。その点で、国士舘大学の学生はすごいなぁと、私は自負しています。

編集部: 新しい試みの授業があるとおうかがいしましたが、それはどのようなものですか?

 それは国際関係論の授業の中で取り組んでいるワークショップ形式の発表のことですね。今年の春から、新しい試みとして取り入れています。狙いは、学生の皆さんに主体的に物事を考えてもらう機会を増やしていくことです。
 テーマとして掲げたのは、国際協力で、「自分たちにできることには、どんなことがあるだろうか」というものです。身近な暮らしの中で、世界の貧困の解決に役立つことを、できるだけ具体的に考えてもらって、発表してもらいました。題材はフェアトレードでもいいし、青年海外協力隊に入って活躍したいということでもいい。はがきの書き損じを集めて、ストリートチルドレンの自立支援を手助けすることもできます。とにかく、自分なりにできることを考え、まとめて、前に出て発表してもらいました。
 発表は志願形式で、手をあげてくれた人にお願いしました。私が何よりうれしかったのは、この発表をやって、「大変だったけど楽しかった」と答えた学生がいたことです。学ぶこと、自分で調べることも含めて、受け身ではなく、自分で何かやろうと思ったとき、いろいろな苦労は当然ありますが、それは全部自分の財産になる、喜びになる。それを知ることこそがワークショップ形式の授業の醍醐味であり、成果だと思います。

編集部: ゼミでは、どのようなことを学んでいるのでしょうか。

 私が担当しているのは、1年生のフレッシュマンゼミ、2年生の基礎ゼミ、3年生、4年生の専門ゼミです。ゼミの学びの中で大きなウェイトを占めているのが、楓門祭での出店です。楓門祭というのは、毎年秋に開かれる国士舘大学の学園祭ですが、そこに模擬店を出し、実践型の学びにしています。
 去年の2年生は、フェアトレードを行っている「チョコレボ」というブランドがあって、その模擬店を出店しました。「チョコレボ」の活動は、ガーナで児童労働に苦しむ子どもたちのために学校を作ることを目的としています。そこに連絡を取って、国士舘大学もぜひ協力したいと申し出たところ、ご厚意でチョコを提供していただき、販売して、その売り上げの一部を寄付させていただきました。
 また、それとは別に「桜プロジェクト」というのがあって、福島の物産を楓門祭で販売し、その売り上げの一部を被災地に寄付する試みです。今現在、3.11で被災した地域の皆さんが集団で移転される方向で造成が始まろうとしています。その地域のコミュニティ再建のために、桜並木を作っていただこうと考え、その原資として我々の寄付金を使っていただきたいと思っています。
 また、今の4年生は、3年のときから、TFT(Table For Two)啓発プロジェクトに取り組んでいます。これは日本の私立大学を含め約100校の学校や企業・団体などが協力しているプログラムで、飽食の国の人と、飢餓に苦しむ国の人、この2人を、食卓を通じて結ぶことを目的としています。具体的には、社食や学食、レストランなどにTFTに協賛するメニューを作っていただき、私たちがそのメニューを注文すると、自動的に金額の一部が、昼ご飯を食べられない国の学校給食支援のために使われるという仕組みです。毎日のランチも、国際社会の構図とつながっている。たった1度のランチが、世界の貧困を変えていく力になる。政治を学ぶということは、こういうことなのだということを、具体的なアクションを通じて実感してもらうことを願っています。

編集部: 3年生のゼミで、沖縄合宿に行かれたそうですが、どのような目的で沖縄に行かれたのですか?

 ゼミ合宿の目的は、二つありました。一つは、歴史の中での悲惨な出来事を学び、平和について考えてもらうことです。初めて沖縄に来た学生にとっては、相当ショックだったようです。大学における学びを問い直すという意味でも、行ってよかったと思います。
 もう一つの目的は、実は3年生のゼミには2人の留学生がおります。1人は中国の男性で、もう1人は韓国の女性です。この2人に内緒で、合宿中に平和なアジアを共に築こうという「マニフェスト」を作り、記念のモニュメントとともに彼らに贈呈しようと企画しました。たまたま同じゼミで学んだ者同士が、これからのアジア、世界を築いていく上で、平和な社会にする責任、未来に対する責任を共有できるような宣言を作るというものです。合宿の最終日、羽田空港で解散するときに、この贈呈式をサプライズで行いました。留学生たちは非常に喜んでくれて、沖縄に行って本当によかったと思いました。

編集部: 最後におうかがいします。国際関係の学びを通じて、どのような人材を育てようとお考えですか?

 国士舘大学には、創立者の言葉の中に、「世のため、人のために尽くす」という大きな指針があります。そういう意味では、本学で学ぶことの意義は明確だと思います。ただ知識を頭に蓄えるだけではなく、本当に世のため人のために実践できるスキルをしっかり身に付けてもらいたいと考えています。
 私は国際関係を学ぶ学生たちに、いつも言っていることがあります。これから生きていく上で、世界とどう向き合うか、同時代に生きる人々や社会の中で、どう政治に向き合っていくか。そのことを考えながら、リアリティを持ち、イマジネーションを持てる人間になってほしいと。世界の紛争や貧困は、遠い国の知らない人の問題ではなく、自分たちの身近な暮らしに関連しているのだということを、想像力をもって理解できる人になってもらいたい。そして、本当に世のため人のために、自分が得た知を実践できる人になってもらいたい。幸い国士舘大学は、他大学と比べても人間関係が密で、培われてきた大学の伝統が、今もその中に生きています。単に学ぶだけでなく、それをどう自分のものにしていくか。そして、いかにして社会に貢献していくか。学生たちには、それを社会の中で示すことのできる、光り輝く存在になってほしいと願っています。

上村 信幸(うえむら のぶゆき)准教授プロフィール

●政治学修士/東海大学大学院政治学研究科
●専門/国際関係論、バレンツ地域研究

掲載情報は、
2013年のものです。