体育学部の底力

編集部: 体育学部体育学科とは、何を学ぶ学科なのでしょうか?

 国士舘大学の体育学部には、現在4つの学科があります。剣道や柔道などを学ぶ「武道学科」と、救急救命士の資格取得を目指す「スポーツ医科学科」、体育が得意な小・中学校の教員養成を目指す「こどもスポーツ教育学科」、そして、私が学科主任を務めている「体育学科」です。体育学科には、学校体育コースとアスリートコースの2つのコースがあります。前者は保健体育の教員を目指して学ぶコース、後者は高校までに取り組んできたスポーツの技術をさらに磨いて世界レベルを目指すアスリートと社会体育指導者のためのコースです。どちらのコースに進んでも、基本的に保健体育教員免許の取得が可能なカリキュラム設定になっています。
 実は、国士舘大学の歴史を振り返ると、1958年に今の新制大学の形に移行するときに、体育学部体育学科から始まっているんですね。理由は二つあって、一つは本学が武道教育に重きを置いてきたこと。もう一つは、当時、中学校・高等学校の保健体育の教員が足りなかったことです。体育学部は、その社会ニーズに応えるために生まれました。
 学部設立から半世紀以上が経った今、子どもたちの体力や運動能力は、親の世代に比べて低下しています。日頃の遊びの中で、体を動かす機会が減っているためでしょう。心身の健全な成長を考えると、今後、体育・スポーツ指導者が果たす役割はますます大きくなっていくと思います。そういう意味では、創設から半世紀を経た今もなお、体育学部体育学科は社会ニーズに応えるために存在している学科だと思います。

編集部: 先生のご専門の野外教育論とは、どのようなものですか?

 野外教育論は、かつては各大学が集中の形で、夏は林間学校をやったり、冬はスキーをやったりしていましたが、昭和の中頃から独立した専門分野として教育の中に採用されるようになりました。国士舘大学でも、平成元年に当時の文部省の指導を受けて、体育学部に野外教育の学びが誕生しました。それで、誰がそれを受け持つかという話になりまして、私がたまたま北海道の出身でスキーとスケートができたものだから、「あなたやりなさい」と、私に白羽の矢が立ちました。当時、野外教育といえば筑波大学が先を行っていたので、そこに1年間内地留学させていただき、野外教育を担当することになりました。
 当時は学校教育の中でお泊まり会などが始まり、小中学校で野外教育が見直されていた時期でした。それで教員養成の課程の中に取り入れるべきだとなって、必修科目になりました。学び以外の場で、子どもたちにいろんなことをチャレンジさせるという意味で、野外教育の果たす役割は大きいと思います。体力はもちろん、五感能力を高めたり、社会に適応する協調性を身につけるうえで、野外活動は効果があります。昔の子が野山でやっていたことを、教育の場でやろうということですね。

編集部: 具体的に学生たちは、野外教育の授業でどんなことを学ぶのですか?

 野外教育の学びは、大きく座学と実習の2つに分かれています。座学では、野外教育の歴史や概念に始まり、野外における危険性、災害への備えや、安全対策といったことを学びます。また、野外活動のカリキュラムの立て方、たとえば4泊5日のキャンプをやるとしたら、どういう内容を盛り込めばいいかといったこともやりますね。あと大切なのは、野外活動における子どもの評価方法です。勝ち負けのある体育の世界は、○か×かで結果が出ます。でも、野外活動は違います。それまでできなかった子が、どれくらい伸びたか。集団の中でなじめなかった子に何人友だちができたか。そういう野外活動ならではの評価方法を学生たちは学んでいきます。
 前期で座学をやったら、その後は実習です。実習は夏休みの期間にやります。学生は、夏の種目のダイビング、キャンプ、カヌーのうちどれか一つを選択し、4泊5日の集中合宿で基礎的なことから学び、技術を習得します。前期の座学と夏の実習がワンセットになって、一つの学びになっています。同じように冬もあります。冬はスキーかスノーボードです。これも夏と同じように、座学と実習でワンセットの学びになっています。

編集部: 実習ではどんなことをやるのですか?

 たとえばスキーの場合、7割ぐらいの学生が初心者なので、初歩の初歩から教えます。合宿は長野の菅平でやりますが、あそこは緩斜面が多いので、まずそこで練習して、なんとか滑れるようになったらリフトに乗せて、上まで連れていきます。滑れるところは滑って、急なところはスキーを担いで降りてくる。これを1回やると、もう恐いものなしで、どんどん滑れるようになりますね。さすが体育学部の子たちは運動神経がいいのでしょう。
 夏はダイビングを選択する学生が多いが、たぶん、授業でやらないと、一生ダイビングなんてやらないって思うんでしょうね。実習は伊豆の海でやりますが、波が穏やかで、初心者が学ぶにはうってつけの場所です。4泊5日の合宿で、初歩のライセンスが取得できるカリキュラムになっています。私は、夏はキャンプ、カヌー、ダイビング、冬はスキーとスノーボードと忙しいわけです。「おまえは季節労働者みたいだな」なんて、冗談で言われますよ。

編集部: レクリエーション論も教えてらっしゃいますね。これはどういう学びですか?

 これは日本レクリエーション協会があって、レクリエーションインストラクターという資格があります。国士舘大学は協会の課程認定校になっていて、卒業と同時にレクリエーションインストラクターの資格が取れるようになっています。
 現在、学校教育の中でも、レクリエーションを採用しているところはたくさんあります。また、地域社会の中で、人と人とのコミュニケーションを円滑にする道具として、レクリエーションの果たす役割は大きくなってきています。簡単な遊びを通して、近所の人や子どもたちが、仲よくなれるわけです。
 初歩の初歩としては、アイスブレーキングをやります。学校でも会社でも、知らない人同士が最初に顔を合わせるとガチガチになりますよね。その氷のような状態を、簡単なゲームなどをやることで融かしていくわけです。心の壁を取り除いて、人の輪に入りやすくするのですね。アイスブレーキングは、いろんな場面で役に立ちます。
 今日、ご覧いただいたアルティメットというスポーツも、レクリエーション論でやっています。アルティメットが日本に来たのは20年前ぐらいです。アメフトとバスケットを足して2で割ったようなスポーツで、ボールのかわりにフライングディスクを使います。アメリカ生まれのスポーツですが、最近はやる人が増えてきて、学校の対抗戦が盛んになってきました。日本は男女とも強いんですよ。レクリエーション論の授業では、この他にも、グランドゴルフやターゲットバードゴルフ、ディスクゴルフなどを学びます。

編集部: 野外活動部の部長もやっておられますね。野外活動部ではどんな活動をするのですか?

 体育学科では、学生は必ず何らかのクラブに所属して、活動をすることになっています。つまり、部活動が1年2年の必修になっているわけです。野外活動部は、そういう必修としてのクラブの一つとして誕生しました。活動はいろいろで、キャンプや散策、キノコ採り、ディスクゴルフ、川下りやラフティングなど、多岐にわたっています。学生はホームページを使って予約して、好きな活動に参加できるようになっています。それぞれの活動につきポイントが与えられ、1年間で30ポイントを取ると単位が取れる仕組みになっています。たとえばキャンプでは、バウムクーヘン作りなどもやります。炭で火をおこして、竹の周りにホットケーキミックス粉を塗って、焼いては塗ってを繰り返して作ります。味はなかなかのものですよ。小学生に特に人気がありますね。

編集部: 先生は北海道の帯広のご出身ですよね。子どものときからスポーツが得意だったのですか?

 そうですね。スポーツは得意でした。特に冬のスポーツは小さい頃からやっていたので、覚えるのに何ら苦労しませんでした。学生を教えるとき、つい「何でできないんだ!」って言ってしまうくせがあります。自分が自然にできていたものだから。自分が苦労して覚えたスポーツは、丁寧に教えられるんですけどね。
 学生時代は陸上の十種競技をやっていました。いまでこそキング・オブ・アスリートなんて言われますが、当時、十種競技は器用な人がやるスポーツという印象でした。おまえ、何の取り柄もないから十種やれっといった感じで(笑)。高校時代は棒高跳びもやっていましたが、国士舘大学に入って本格的に十種競技をやりました。一応全日本選手権で4位入る成績を残しました。それでそのまま国士舘大学に教員として入って、陸上競技を教えるようになりました。
 スポーツは大好きで、今でもいろいろやっています。例のアルティメットも、授業で学生に教えるために、あっちこっち回って練習しました。20年ぐらい前のことですね。ダイビングもその頃から練習を始めて、指導できるようになりました。スノーボードは、57才のときに一級の資格を取得しています。他にもいろいろ、趣味があります。そば打ちもやりますし、薫製やビールも自分で作ります。人生そのものが野外活動という感じですね。夏や冬の実習のときには、そば打ちの道具もいっしょに持って行って、学生や先生たちに振る舞っています。

編集部: 体育学科の学生は、どのような進路に進むのでしょうか。

 体育学部体育学科は、基本的には体育の教員を養成するための学科です。しかし、教員の道は受け皿が狭く、学校の先生やスポーツジムのインストラクターになれるのは2割ほど。あとの8割ぐらいの学生は一般企業に就職します。
 ただ、ありがたいことに、体育学部の学生を受け入れてくれる企業は多いですね。就職はいい方だと思います。運動能力に加えて、礼儀正しい、精神的にタフである、といったことが企業に評価されているのです。ここの学生たちは、先輩後輩の関係で鍛えられていますから。また、春と秋に学校をあげてマナー週間というのを設け、マナーも教えています。
 今後は地域社会において、体育の指導者がますます必要になってくるでしょう。自治体の方でも、地域のために活動する団体をNPO法人化して、地域総合型レクリエーションを推進するといった動きも出てきています。子どもやお年寄りを集めて、簡単なゲームをやったり、スポーツをしたり。地域社会の活性化に役立つ人材が、これからは求められてくると思うし、そういうニーズに対応した人材を育てるつもりです。

編集部: 体育学部体育学科の学びを通じて、どのような人材を育成したいとお考えですか?

 なんでもコツコツと、努力を惜しまずにやっていける人間になってもらいたいなと思っています。これは全般的に現代の若者に欠けているように思います。今、私の活動の中に、サバイバルというのをテーマに入れてあるんです。たとえば、水しかないときにどうやって米を炊くか。そういうときはペットボトルに米を入れて、水を入れて沸騰させてご飯を炊く。こういうものを取り入れて、人間としての底力を身につけさせてあげたいと思っています。ご飯を炊くというのは一例ですが、何かその場にあるもので何とかする、そういう力ってだいじですよね。野外教育の学びを通して、マニュアル外のことを学んでほしい。何でも自分の力で、できるようになってほしい。社会に出て、自分の力で食べていくのはたいへんですよ。ある意味、人生はサバイバルです。何かあったら辞めてしまう、あきらめてしまうではなく、何事もあきらめず、コツコツと粘り強くやっていける、底力のある人間に成長してもらいたいと思っています。

川田 儀博(かわだ よしひろ)教授プロフィール

●国士舘大学体育学部卒業 体育学士
●専門/野外教育、レジャー・レクリエーション学

掲載情報は、
2013年のものです。