理工学部の貢献

編集部: 先生は、どのような分野のご研究をなさっているのですか?

 私が主に研究しているのは、専門的に言えば、熱工学、エネルギー工学といった分野になります。熱の出入りを利用して、物を冷やしたり、暖めたり、温度差をエネルギーに変えて物を動かしたり、ビルや工場の排熱を利用したりってことです。分かりやすくいえば、地球環境に優しい動力・エネルギー機械に関する研究をやっていて、例えば、冷蔵庫やエアコンの仕組みを応用する研究をやっているわけです。大学で学んだのち、家電メーカーに入って、そこで10年間ぐらい製品の研究や開発をやりました。だから、大学の研究者というより、意識や価値観はいまでも企業人なんです。
  会社にいると、本当にいろんなことをやらされます。そこで私は数々の失敗を経験しました。それで本を出したくらいです(笑)。そういった失敗談は、大学で教えているときにも学生たちによくします。「こういうことに気をつけないと失敗するよ」って。ただ、失敗は必ずしも悪いことばかりではなく、失敗することでさらなる工夫が生まれ、改良できることもあるんです。失敗はエンジニアの宝箱。学生にはできるだけ、試行錯誤を繰り返し、自分から工夫させるようにしています。

編集部: たとえば、どのような失敗ですか。差し支えなければ教えていただけますか。

 本にも書いたのですが、たとえば冷蔵庫に、自動製氷器というのがあるんですね。製氷室に自動的にブロック氷ができる機能です。あれの開発で、透明な氷が作れないかというテーマがありました。氷って、冷凍庫で凍らせると濁るんですね。上から冷却するため、水に入った空気の逃げ場がなくなり、気泡が混じって濁ってしまう。それで、透明な氷を作るために、製氷皿を下から冷やす方式を考えました。
 これは実際にうまく透明な氷を作ることができました。ところが、予想もしなかったことが起きた。製氷器が原因で水漏れしたのです。どういうことかというと、この製氷器は、プラスチックの製氷皿をねじって氷をバラバラにし、ひっくり返して製氷庫に落とすようになっている。なぜ氷がバラバラになるかというと、凍るときに体積が膨張して、下に向かって膨らんでいくとき、自然に型からはずれる方向に力が働くんです。それを下から凍らせることにしたので、膨張の力が上に向かって働き、氷は型にくっついたままになって下の製氷庫に落ちなかった。そこに新たに製氷用の水が入ってきて、漏水事故につながりました。これは水が氷になると体積が増えるという、中学生でも知っている基礎知識とそれを利用している事を忘れてしまったミスですよね。私は学生によく言うんです。「基礎を利用している製品はたくさんあって、それを忘れると大事故にもつながるんだぞ」って。

編集部: いま、大学で、どのような研究をなさっているのでしょうか?

 いくつかありますが、一つは「スターリングエンジン」というものです。イギリスの牧師さんが18世紀に発明した動力システムですが、これがすごいんです。温度差があれば、その温度差が解消されるまでピストンを動かし続けてくれるのです。たとえば、ここに簡単な模型があります。下の受け皿に60℃のお湯が入っています。スタートのときだけ手で動かしてやると、ほら、このようにカタカタと、ピストンが動き始めます。
 スターリングエンジンは、温度差があればどこでも動きます。たとえば、ゴミ焼却場や工場の廃熱は200℃ぐらいなので、現在は利用できずに捨てているところが多い。でも、スターリングエンジンを使えば、廃熱を利用して発電できます。私がいま注目しているのは、天然ガスです。天然ガスは輸送のときの体積を減らすため、冷却して液化します。それをガスに戻すときに、大量の冷気が出ます。その冷気と気温の温度差で、やはりスターリングエンジンを動かすことができます。エアコンの室外機から出る排熱から発電する、といったこともスターリングエンジンなら可能なのです。
 スターリングエンジンに関しては、大学に来てから出願した特許があります。再生器という熱の移動を遮断する機構なんですが、従来はステンレスとか銅の金網を使っていました。でも、銅だと重いので、軽くしたいというのもあって、女性のパンストはどうだろうと思いついたんです。冬でもあれ一枚で寒くないという話を聞きましてね。そうしたら、学生が実際にパンストを使って実験をやってくれまして、それで性能が上がってしまったんですね。その後、いろいろ改良を加えて、特許を申請しました。産業発展のために、幅広く、いろんな人に利用していただけたらと思っています。 
 もう一つの研究は、屋上緑化とビルの空調を融合させるというものです。屋上緑化はビルの断熱にもなりますが、同時に、緑化に使う植物のプランター、あれが熱を溜める蓄熱槽の役割を果たしてくれます。植物を育てる人工土に伝熱管を埋設して、吸収した熱を利用するのです。夏場は日射が強いので、伝熱管で回収した熱に、ビルの空調から出る廃熱をプラスすると、90℃ぐらいのお湯が作れます。これで十分給湯ができるわけです。冬場は逆に、ビルが排出する熱を屋上のプランターに持っていき、土を暖めて植物の冬枯れを防ぐことができます。プランターで育てた野菜や果物を食べる楽しみもあって、一挙何得にもなるわけです。いま、屋上に試作のプランターを作って、学生や院生たちといっしょに、いろいろ試しているところです。

編集部: 国士舘大学の授業では、どのようなことを教えてらっしゃるのですか?

 エンジニアの基本はものづくりなので、1、2年次でその基礎をしっかり学んでもらおうと思っています。たとえば1年生の春の「ものづくり基礎」という授業。ここでは高校生までの理科の知識でできるものづくりに挑戦してもらいます。作るのは紙飛行機とか、竹とんぼとか、紀元前に使われたという投石機の模型ですね。ただ作るだけでは小学生でもできるので、条件を付けます。紙飛行機だと10m以上まっすぐ飛ぶ、竹とんぼは30秒以上滞空する、投石機は輪ゴム一本の力でスーパーボールを10m以上飛ばす。けっこうハードルは高いんです。それぞれ実験し、改良を加え、どうやったらより長く、遠くへ飛ぶかを、プレゼンテーションしてもらいます。失敗しながらでも、工夫を重ねていけば成果が出るんだということを、自分で実感してもらいます。
 3、4年はゼミナールで、専門的なことをやります。ゼミは10人程度の少人数でやりますが、研究室を溜まり場にして、そこから授業に出かけるようになってもらいたいと思っています。教えるというより、自主的に自分で行動する癖をつけてほしいのです。また、大学では加工実習をやる機会が少ないので、ゼミに入ったときに、自分のネームの入った焼き印を作ってもらうようにしています。フライス盤で金型を作り、電気炉で加熱して、木材の表面に自分の名前を刻印します。なるべく機械に触れて、自発的にものづくりをして、それに関連する専門知識を私が教えるようにしています。この秋できる、「メイプルセンチュリーホール」の地下には、理工学部のための設備が誕生します。3次元CAD/CAEと3次元造形機を導入予定の製図室やものづくり工房、実験室などができ、機材も充実するので、学生がいろいろやるにはいい環境になると期待しています。

編集部: 先生は3次元CADも教えてらっしゃいますね。

 はい。国士舘大学では、三年生で3次元CAD設計をやります。他大学だと、製図の授業の終わりにちょこっと使い方を習う程度ですが、私はそれでは意味がないと思っています。なぜなら、3次元CADを中心に置いたものづくりは、実際に企業の現場で取り入れられている手法だからです。3次元CADで作ったデータは電子データです。その3Dのデータが、どうやってCGの世界につながるのか、自動加工につながるのか、それを使って構造解析や熱伝導解析をどうやってやるのか。実際のものづくりとリンクした形でそこまで教えないと、意味がないと思っています。
 それともうひとつ、私の研究と関連することですが、3次元CADで最近はいろんなことができるようになってきました。いま私がやっているのは、アートなデザインと工学の融合ですね。たとえば、自動車の美しいフォルム、あの曲線はデザイナーが感性で描くものですが、そのままだと製品化できません。で、エンジニアが四苦八苦して、曲線を関数定義できるものに置きかえていくんです。でも、デザイナーが3次元CADを使って、最初から関数定義できる曲線でデザインすれば、ずっと効率がよくなります。こういった感性とエンジニアリングの融合とか、昆虫やカメなどの生物の動きや形を機械設計に応用するといった研究を、3次元CADを使ってやっています。
 機械設計というのは総合科目なので、材料のことから、運動力学、エネルギーのことまで、幅広く知らないとできません。単なるオペレーターではなく、3次元CADを使いこなしてものづくりができるエンジニアが求められているのです。

編集部: 先生は、学生に、どんなエンジニアになってもらいたいとお思いですか?

 日本はものづくり先進国です。いまでもそれは変わっていません。ですが、バブルが崩壊したあたりから、企業に入ってくる学生の質が変わってきた。妙にスレてるんですね。「僕は大学でコンピュータシミュレーションをやっていたから、実験はやりたくない」とか。これじゃいけない。ものづくりの楽しさを知った、モチベーションの高いエンジニアを教育の現場で育てて、企業に送りこまなくてはと、私は思うようになりました。
 いま、世の中では、事故がたくさん起きるでしょう。飛行機の墜落や、電車の転覆、ジェットコースターの脱線とか。原因はいろいろですが、でも、そこにエンジニアにしかできないことがあるんですよ。それは、事故が起きないようにする、あるいは起きたとしても絶対に人が死なないものにするということです。整備に手抜きがあっても、運転士が居眠りしても、機械の設計段階からリスクを想定して、それに対処できていれば、事故が起きても人は死なない。それって、エンジニアにしかできないことなんです。逆に言えば、エンジニアは、仕事をとおして人や社会を幸せにすることができる。そういうすばらしい仕事なんだぞということを、学生のみんなに知ってもらいたいのです。

編集部: 最後になりますが、先生は、どのような人材を世に送り出したいとお考えですか?

 うちのゼミには「明るく楽しく、そして厳しく」というスローガンがあります。エンジニアの仕事は人との協力が不可欠なので、まずは明るく、楽しく、協調性を持ってというのが大事です。そして、厳しくというのは、自分に厳しくあれ、ということです。
 これと同時に、「大高自分勝手語録」というのがあって、10箇条まであります。第一条は、「置かれた立場で全力を尽くせ!」です。会社に入ると、いろんなことをやらされます。中には不本意なこともあります。それでも腐らずに、置かれた立場で全力を尽くせ。どんなことでもやれば自分のプラスになるし、頑張っている人は必ず人が見ていて、評価してくれます。
 社会で生きていくために、大切なことが二つあると私は思っています。一つは、体が丈夫であること。へこたれない体力ですね。もう一つは、いつも前向きであること。私は常々学生にこう言っています。たとえ転んで頭を打っても、それでも前向きに考えろとね。転んだおかげで、地面の匂いが嗅げたじゃないか。そうでもなきゃ、地面の匂いなんて嗅ぐことはないぞって。
 大学を出たぐらいで、何かできると思うな。何もできないと思って行け。「でも、体力には自信があります。いつも前向きです」、そんな若者がいたら、誰でも応援したくなりますよね。転んでも、失敗しても、いつも前向き。こいつ、何かやってくれそうだな。そんな人になってほしいと願っています。

大髙敏男(おおたか としお)教授プロフィール

●技術士(機械部門)、博士(工学)
●専門/熱工学、冷凍・空調工学、エネルギー工学、機械設計
●主な著書/失敗から学ぶ機械設計、絵とき再生エネルギー基礎のきそ
(いずれも日刊工業新聞社)他多数

掲載情報は、
2012年のものです。