理工学部の挑戦

編集部: 二川先生は、理工学部で何を専門に研究されているのですか?

 私の主な研究テーマは、新しいマイクロ波とミリ波応用技術の開発です……というと難しそうに聞こえるかもしれませんが、要するに電波の研究ですね。いま、世の中では、身近なところで電波が大活躍しています。テレビやラジオが見られるのも、携帯で電話できるのも、電子レンジでお弁当が温まるのも、すべて電波のおかげです。この電波がもっともっと人の役に立つように新しいものを開発するのが、私の研究テーマです。

編集部: 子供の頃から理科はお好きでしたか?

 そうですね。子供のころから電波には興味があって、ラジオを作ったり、アマチュア無線をいじったりしておりました。ただ、数学はあまり得意ではありませんでしたね。ですので、進学のときは理系か文系かで迷うこともありました。いちおう希望通りに理工系の大学に進むことができましたが、もし、あのとき文系に進んでいたら、私の人生は大きく変わっていたでしょう。

編集部: いまの研究に進まれたきっかけは?

 医療と理工学を結びつける研究を始めたのは、大学時代です。当時、私の通っていた慶應義塾大学では、他大学や企業との共同研究がさかんで、先生の紹介で、防衛医科大学で医用電子工学の研究をやることになりました。その研究というのが、「ハイパーサーミア」という電波を使ったガン治療器の開発で、これはアンテナで患者の体に電波を当て、体内のガン細胞を叩こうという画期的なものです。多くの方々の協力のお蔭で、研究開発した装置は、実際に製品となって発売されました。いまでもこの治療器は、医療の現場で使われています。自分の研究が商品化され、社会に役立つのを見るというのは、たいへんワクワクする体験ですよ。

編集部: この分野の研究で、学会の賞をお取りになっていますね。

 はい。平成20年に、「電気技術通信学会のエレクトロニクスソサエティ賞」というのをいただきました。ずっと研究を続けてきたこの分野の総合的な成果に対して、これまで力を合わせて研究開発に携わった多くの学生、研究生や関係者の努力の賜であると感謝しております。それと、IEEEというアメリカの電気電子学会の賞もいただいています。この分野で国際的に権威があるとされている学会ですが、私はそこの理事を担当している関係で、年に3回ほど学会に出席しています。当然のことながら、早朝から深夜までの会議はすべて英語なので、学生のうちにもっと英語力をつけておくべきであったと反省しています。

編集部: 海外と比べて、この分野の日本の研究はどうなのでしょうか?

 そうですね、いままで日本は技術的に優れていて、リードする立場にありました。しかし最近は、中国とインドをはじめとするアジア諸国がものすごく進んできて、日本の技術をどんどん研究して、超えるものを作ろうとしています。まさに世界的に注目を集めている研究分野なのですが、やや気がかりなのは、この分野を志す学生の数が、世界と比べて日本は減少傾向にあることです。このままだと日本は世界の潮流から取り残されかねない状況にあります。だから、学生にはどんどん海外に目を向けて、外の研究者と情報交換してほしいと思っています。この間も、うちの学生達が、シンガポールの学会に出て、自分達が頑張って進めた研究の成果を発表しました。

編集部: その注目の研究分野を、いま、学生に教えていらっしゃるのですね。

 そうです。いま、私は国士舘大学理工学部の「健康医工学系」で教えています。一般的にはあまり知られていませんが、実は医療現場には、理工学の技術を応用した機器がたくさん導入されているんですよ。たとえば、MRIやCTスキャナといった診断装置、心電図や血圧を計る機器、また、医療事務の方でも電子カルテ等が導入され、IT技術が活用されています。だから、いま医療の現場では、理工学と医療の両方に通じた人材が求められているのです。今後、社会の高齢化が進むにつれて、ITを使った遠隔診断や在宅治療が一般化していくでしょう。そうなれば、ますます、医療機器の使い方に精通した人間が必要となってきます。人々の健康を守り、医療をサポートするうえで、健康医工学系の人材は欠かせない存在となってきます。非常に将来有望な分野だと思いますよ。

編集部: 研究室には学生さんがたくさんいらっしゃいますが。

 はい。ここはもう、学部の学生や大学院生のたまり場になっておりますね。いま、ここにいるのは、3年生と大学院生です。授業レポートの作成や研究論文を書くのに自由に使ってもらっています。もちろん、私が指導することもあります。質問してみたり、質問に応えたり、ああだこうだといって、学生の邪魔をしています(笑)。また、「日本電磁波エネルギー応用学会」というのがあって、ここはその事務局にもなっています。会員数が200人ぐらいの学会ですが、理事長を仰せつかっていることもあり、国士舘大学で学会を何度か開催しました。ご参加頂いた方々から、世田谷キャンパスの利便性、施設の充実等、高い評価を頂いております。

編集部: お忙しい毎日ですね。先生は、何かご趣味はあるのですか?

 趣味ですか? 近所のジョギングぐらいですかね。私は研究が大好きで、自分の研究のことを考えているのがいちばんの息抜きになるんですよ。昼間は授業や学生の実験・実習指導で忙しく、自分の論文を書くのは夜になります。自宅で書くこともありますが、研究室に泊まりこむこともありますよ。

編集部: 難しい分野の研究だと思いますが、学生さんに教えるのに、何か工夫はされていますか?

 たしかに、医療と理工学の両方を学ぶのは、決して易しいことではありません。学生が高度な技術を学び続けるためには、興味と目的が必要だと私は考えています。そのために、授業を工夫して、できる限り具体的に学べるようにしています。たとえば、理工学部としては珍しく、病院で診断に使うMRIを備えているのもその現れです。学生たちはここで自分の身体をスキャンして、自らの学びに役立てています。また、MRIを製造している工場を見学したり、「マイクロウェーブ展」といった展示会に大学展示として参加したり、3年次には2週間の病院実習も用意されています。こういった座学では学べない経験を通して、学生たちはイキイキと医工学の分野を学んでいきます。

編集部: 最後になりますが、どのような人間を社会に送り出したいとお考えですか?

 電波にはまだまだ大きな可能性があると思っています。電波を使ってガンの治療を行うだけではなく、虫歯の診断・治療や、血液を採取せずに血糖値を測るといった機器の研究もされています。医療の分野はもちろんのこと、電波はさまざまな分野への応用が可能で、暮らしに役立つ研究が幅広くなされています。私自身、学生時代の研究成果が実際の治療器となり、人の健康に役に立つという喜びを味わいました。この経験は、いまでも私の学びの原動力となっています。人や社会のために役立つことが、いかに素晴らしいことか、そしてまた人生を有意義なものにしていくか。そういった点を、ぜひ、学生に感じてもらいたい。そして、社会に役立つ人として育ってもらいたい。そのために、私は医療と理工学の垣根を越えた新しい分野の教育に、全力を注いでいきます。

二川佳央(にかわよしお)教授プロフィール

●工学博士 ●慶應義塾大学大学院修了 
●専門/マイクロ波、ミリ波応用工学、等

掲載情報は、
2010年作成時のものです。